
クルマの運転のなかには、特に気にすることなく日常的にやっていることがいくつかあるが、エンジンのアイドリングもそんなひとつ。愛車の寿命に意外と差が出るかもしれない、アイドリングの正しい使い方とは。
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文:井澤利昭/写真:写真AC
そもそもエンジンのアイドリングとは?

どんなに回転数が低くても、エンジンが動いている状態では常に燃料が消費されていく。 長時間におよぶ渋滞などでクルマが動かなくても、アイドリングが続けば燃費はどんどん悪化してく
ドライバーであれば誰もが知っているであろうアイドリングは、エンジンがかかったままアクセルペダルを踏まず、クルマが停車してる状態のこと。
英語で「仕事していない」「遊んでいる」といった意味を持つ「idle」からきた言葉で、クルマがすぐさま走り出せるようにするための待機状態と思っていいだろう。
アイドリング状態にあるエンジンの回転数は、水温が低い始動直後である「ファーストアイドル」でこそ1000rpm程度とやや高いが、走行を始めてエンジンが温まってくるごとに徐々に下がっていき、最低限の600rpm程度にまで落ち着くのが一般的とされている。
では、エンジンにとってアイドリングはなぜ必要なのだろうか。
先ほども述べたとおりクルマを走らせるためには、エンジンある程度温まっていることが必要。これはエンジンオイルなどの潤滑油を常に循環し続けることでエンジンの負荷を減らし、クルマが走り出す際に効率良くエンジンを動かすことにもつながるからだ。
こうしたメリットがあるいっぽう、アイドリングにはデメリットも少なくない。
まずは必要最低限の回転数とはいえエンジンを回し続けることで燃料を消費することになり、燃費の悪化につながってしまうという点。
国土交通省が公開しているデータによると、アイドリング時の燃料消費量は10分間で約140ccにもなるとも言われており、この数字は意外とバカにできない。
あわせて排ガスや騒音といった問題もあり、ここ最近はアイドリングストップ機能を搭載したクルマも少なくない。
長時間のアイドリングでエンジンやバッテリーへの負担が増大!

長時間のアイドリングはクルマへの悪影響だけにとどまらず、マフラーから出る排ガスやエンジンからの騒音により周辺の環境にも大きな負荷をかけることになる
燃費の悪化や排ガス・騒音による周辺への迷惑となることが考えられるアイドリングだが、そうした悪影響が如実に出てくるのが、長時間のアイドリングだ。
特に事故渋滞や悪天候の影響などで、通常よりも長いアイドリングを強いられることが続けば、クルマ自体に悪影響を与えてしまうこともありうる。
そもそも回転数が最小限に抑えられているアイドリングは、エンジンの燃焼にとってはあまり良い状態とは言い難い。
こうした状態が長く続くことでまず悪影響が考えられるのが、エンジンの温度が上がらなくなることで適切な潤滑ができなくなり、その内部に燃えカスや油汚れといったスラッジがたまりやすくなること。
さらにエンジンオイルが汚れるなど劣化も早まることにもつながるため、長時間のアイドリングを頻繁に行うとエンジン本来が持つ性能を十分に発揮することができなくなってしまうこともありうる。
また、バッテリーの消耗・短命化も懸念される点だ。
アイドリング状態であってもオルタネーター(発電機)によってバッテリーの充電は行われているものの、走行中と比べると回転数が低いため発電量も少なくなっている。
こうした状態で灯火類やエアコン、デフロスターといった電装品を使用したり、消費電力の大きい機器をシガーソケット(アクセサリーソケット)からの給電で使用または充電していると、バッテリーへの充電が追いつかず、電力不足に陥ってしまう。
バッテリーあがりとまではいかずとも、こうした状態が続けば当然バッテリーには大きな負荷がかかることになるため、その寿命を縮めてしまう可能性もありうる。
さらにAT車の場合、シフトレバーをDレンジのまま長時間のアイドリングを続けてしまうと、ミッション内部にこもった熱によってATF(オートマチックトランスミッションフルード)が酸化し、劣化がより早くなることも考えられる。
高速道路での長時間におよぶ渋滞でクルマがまったく進まないといったシチュエーションでは、Pレンジへの切り替えが得策だ。
加えて、クルマのみならずドライバーの命に関わる事態を引き起こすことも。
特に気をつけたいのが、一時期ブームとなった車中泊や大雪などの悪天候で立ち往生した際など、車内で長時間過ごすことになった場合。
エアコンを使用するためにエンジンをかけ続け、一晩中アイドリングを続けるという状況で排気口がゴミや積雪などでふさがってしまうと、行き場をなくした排ガスが車内に逆流してしまい、それが原因で一酸化炭素中毒を起こし死に至る可能性さえありうるからだ。
クルマの調子が悪くなるだけでなく、命の危険まで考えられるだけに、こうしたシチュエーションでの長時間のアイドリングは控えるよう肝に銘じておきたい。
アイドリングを積極的に使いたいシチュエーションも

現代のクルマでは不要とされている暖機運転だが、チョークレバーがあるキャブレター車のような古いクルマでは、数分程度の暖機運転を行うことで走行前のエンジンのコンディションを整えることができる
こうしてみるとデメリットばかりが目立ってしまうアイドリングだが、もちろん必要とされるシチュエーションもありうる。それが、走り出す前の暖機運転だ。
ピストンやシリンダーなど、エンジン各部を構成するパーツの精度が高くなり、燃料噴射に電子制御式のインジェクションを採用する現代のクルマではもはや必要とされていない暖機運転ではあるが、特定のシチュエーションにおいては行ったほうがよいとされている。
そのまずひとつめが、長期間動かさずにいたクルマを久しぶりに走らせる場合。
こうしたクルマは、エンジン内部の金属パーツ同士が触れ合う摺動部を潤滑するためのエンジンオイルが長い時間動かさなかったことでオイルパンまで下がってしまってるため、エンジンをかけていきなり走り出してしまうと、エンジン内部にダメージを与えてしまう可能性がある。
また、マイナス10度以下になるような極寒地など、極端に気温が低いシチュエーションでも暖機運転はしたほうがいい。
低温下で想定より粘性が落ちているエンジンオイルをアイドリングでの暖機運転で暖めることで本来の潤滑性能を取り戻させ、エンジンの負担を減らすことできるからだ。
とはいえその時間は30秒から長くても1分程度でOK。その後ゆっくりと走りながらエンジンを暖める暖機走行に切り替えよう。
見直され始めているアイドリングストップ機能

排ガスや騒音といった環境面ではメリットがあるアイドリングストップだが、クルマにとってはデメリットとなるケースも。ここ最近はその機能の採用を見送るメーカーも増えてきている
燃費の向上や排ガス・騒音といった環境への影響を抑えるため、2010年代頃から増えてきたのが、アイドリングストップ機能を備えたクルマだ。
アイドリングストップは、文字どおり停車と同時に自動的にエンジンを停止し、再スタートに合わせて再度エンジンを始動するという機能。当初は一部車種のみでのあったものが、「お財布に優しい」「エコ」などを売り文句に、コンパクトカーや軽自動車にも爆発的に普及していった。
いっぽうで、アイドリングストップ中はエアコンの利きが悪くなる、エンジンの停止と再始動を繰り返すためバッテリーへの負荷がかかり寿命が短くなることがある、思ったよりも燃費向上の効果が見られないうえ、短距離ではかえって燃費が悪化することもありうるなどのデメリットを指摘する声も。
こうした背景に加え、燃費性能の向上がさらに進んだことにより、近年、一部メーカーではアイドリングストップ機能の搭載を見送る動きも出てきている。
また、発進時のわずかなタイムラグにどうしても慣れないという人もいるのも事実だ。
こうした場合はアイドリングストップ機能をキャンセルしてしまうのもあり。
ただし、キャンセルボタンを使ったアイドリングストップ機能の機能の停止は一時的なもの。クルマの再始動とともにオンになってしまうタイプがほとんどだ。
常にオフの状態にしたい場合には、継続的に機能をオフにすることができる市販のアイドリングストップキャンセラーの導入が必要となる。
普段気にすることもないエンジンのアイドリングだが、意外に愛車のコンディションに影響するもの。シチュエーションや運転の仕方に合わせたその使い方を、普段から意識しておきたい。